『徒然草』第116段「寺院の号、さらぬ万の物にも」~キラキラネームの歴史~

徒然草第116段のアイキャッチ画像 古典作品

 

皆さんは古典がお好きですか?私は好きです。

 

きっと皆さんの中には高校時代に古典文法という名の呪文にうんざりし、古典嫌いになられた方も少なくないのでしょう

 

「あり・をり・はべり・いまそかり」だとか「せ・〇・き・し・しか・〇」だとか、はっきり言って実生活には何も使いませんよ。

 

しかし私は言いたいのです。「古典はつまらなくない。つまらないのは古典文法だったのだ」

 

古典作品は現代まで生き延びた、その時代の傑作。そして過去の時代の人たちと対話できる唯一のツールなのです。つまらないはずがありません。

 

そこで古典作品を、楽しく・役に立つ、そんな視点でご紹介し、古典の世界へご案内出来ればと思います。

 

という訳で初回の今回は兼好法師の『徒然草』116段をご紹介いたします。

『徒然草』(つれづれぐさ)とは

竹林の画像

その前に『徒然草』とは何かについて、ごくごく簡単に触れておきましょう。

 

『徒然草』は今から700年くらい前(鎌倉時代末)に兼好法師(けんこうほうし)という人が書いた随筆(ずいひつ・エッセイ)というジャンルの作品です。

 

もっと簡単に説明すると、兼好法師という名前の隠居したオジサンが、今まで見たこと、聞いたこと、考えたことなどを思いつくままに書きまくったら出来た作品。そう思っていただければOKです。

 

ついでに兼好法師についての説明も少々。

兼好法師はもともと貴族でしたが、世の中にうんざりしたため、30歳の頃に出家(俗世を捨て僧侶になること)し、仏教の修行、和歌の制作、文章執筆などにあたったとされています。ちなみに俗世を離れて生活する人のことを隠者(いんじゃ)と言います。

 

徒然草は全部で243個の話から構成されています。中でも「つれづれなるままに~」で始まる書き出しが特に有名ですね。

 

中学生のころに国語の授業でよく分からずに暗唱した人も多いかもしれません。

 

それでは改めて『徒然草』第116段「寺院の号、さらぬ万の物にも」を見ていきましょう。

第116段「寺院の号、さらぬ万の物にも」 現代語訳

ナナマツ的現代語訳~意訳含みます~

 

 お寺や神社の名前、それ以外の全てのものでも、名前をつけるときに、昔の人は少しもひねるようなことはせず、ただありのまま、簡単につけたものだ。最近はあれこれ深く考え、自分の知識や才能を見せつけようとしているようでとても嫌な感じだ。

 

 人の名前も見慣れないような文字をつけようとするのは意味のないことだ。どんなことでも珍しいことを求めて、人と違ったものを好むのは、浅はかな人が必ずやることであるということだ。

 

第116段「寺院の号、さらぬ万の物にも」 原文

 

第116段「寺院の号~」原文 寺院の号、さらぬ万の物にも、名をつくる事、昔の人は、すこしも求めず、ただありのままに、やすくつけけるなり。此の頃は深く案じ。才覚をあらはさんとしたるやうに聞こゆる、いとむつかし。人の名も、目なれぬ文字をつかんとする、益なき事なり。何事もめづらしき事を求め、異説を好むは、浅才の人の必ずある事なりとぞ。

 

【言葉の意味】

・号…名前

・万…よろず・すべて・たくさん

・求めず…あれこれ探すようなことはせず

・やすし…簡単に

・才覚…才能や知識

・むつかし…嫌な感じだ・見苦しい・不快だ

・益なし…利益がない・意味がない

・浅才…浅はかな知恵

第116段「寺院の号、さらぬ万の物にも」 解説

キラキラの画像

最近「キラキラネーム」なんて言葉をよく聞くようになりましたね。何より驚くのは今から700年前の人々も、名前をつける時、あれこれ珍しい漢字を使って「人と違った名前をつけよう」としていたということです。

 

それに対して兼好法師が「普通使わないような文字を使って人と違いを出そうとするのは浅はかだ」「昔はもっとシンプルにつけたぞ」なんて具合にダメ出ししています。

 

何だかオジサンが「これだから今の若いもんは」なんて居酒屋で若者にからんでいる姿が浮かんできますね。

 

『徒然草』って実はオジサンのありがたい?お話集という側面があるわけです。

 

キラキラネームという言葉が生まれる遥か昔から、人は珍しい名前をつけたがる歴史があったのかもしれません。

 

そして最初はあれこれ言われながらも、段々となじみ、その頃には新たなキラキラネームが登場するというのを繰り返してきたのでしょう。

 

人は今も昔も変わらない部分がある。それが分かるのも古典の楽しみの1つです。

 

今日のまとめ

キラキラネームは昔からありました。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも古典に興味を持っていただけると嬉しいです。